zanzibar 27-2. dec. 2002
「パンッ!」空虚な構内に乾いた音を景気よく響かせながら、係りの男が三角形の入国のスタンプをくれた。つい何時間か前にもらったばかりのタンザニアの四角いスタンプの横に三角形のスタンプ。ザンジバルはタンザニアであり、タンザニアはザンジバルではない。だがタンザニアのほんの一部でしかないザンジバルでは、過去の経緯から今でも独自の入管手続が必要なのだ。 ザンジバル。アフリカとアラブの交差する不思議な島。スワヒリ語発祥の地でもあり、スパイスで栄え、奴隷や象牙貿易の港としてもかつては賑わっていた。その地理的な条件と豊かさゆえに、数奇で複雑な運命に翻弄された島。個人的な思い入れとしては、高校生の頃に夢中で聴いていたビリー・ジョエルのアルバムに「ザンジバル」という曲があった。もう随分と昔の話になってしまった。不思議な響きにカリブっぽさを感じていたが、後になってからアフリカに浮かぶ小さな島だと知って、随分意外な気がした。クィーンのフレディ・マーキュリーはこの島で生まれたそうだ。何処に行くの?と聞かれ、ザンジバルと答えてもほとんど人は知らないが、マニアックで辺鄙な場所かと言うとそんなことは無く、欧米人には良く知られたリゾートアイランドだ。豪華なリゾートホテルにダイビングなどマリンスポーツ。島の中心地ストーンタウンはかつての面影を残す迷路のような街で、世界遺産にも登録されている。こうやって説明していると随分とベタな観光地に思えてくるが、わざわざやって来たのはそんなリゾートライフを満喫するためではない。おれにとっての未知のキーワード、「イスラム」「アラブ」「アフリカ」「奴隷貿易」、正に歴史、宗教、民族がややこしく四十八手のごとく絡まり合い、曖昧に漠然と、しかし強固にアフリカ東海岸一帯に横たわる「スワヒリ」なるもののど真ん中にポッカリ浮かぶこの島を少し覗いてみようと思ったからだ。借金未返済の貧乏野郎やリストラ危機のクビの皮一枚野郎の我が親愛なる同行者二人を失い、思いがけず一人旅になってしまったが、まあ、それはそれで新たなるチャンス到来なんだろう。骨の随までスワヒリを満喫してやろうじゃないの! もぞもぞと、枕元を探りながら腕時計をつかみ半目で文字盤を確認する。15:53。蚊帳のせいでせっかくのファンの風が遮られ、寝苦しい浅い昼寝だった。長旅の疲労&緊張を昼寝で解消のはずだったが、この暑さではかえってイライラが増すだけだ。ここはストーンタウンの迷路の中にあるとある宿。約2時間前、ボロボロのホンダで何件かまわってやっとここに決めたのだ。一泊15$、TVにトイレ&シャワー付き。もちろん水しか出ない。天井に大きなファンも付いている。なかなか小奇麗で味のある宿だ。汗まみれの昼寝に見切りを付け、カメラの入った重いバックを肩に外へ繰り出すことに。 地図を広げこの宿の位置をまずは確認だ。フロントのムスリムねーちゃんの答えが今ひとついい加減なので、念の為地図にホテル名&アドレスを書いてもらう。ホテルのカードなんてものはありゃしないのだよ、このクラスだと。宿の前はこぢんまりと広場になっているが、すぐに迷路のような細い路地が好き勝手な方向へ延びている。取り敢えず目指すのは海辺だ。なんとなくの方向へ出来るだけ曲らないように真直ぐに進路を取る。すれ違う人々に挨拶をしながら&されながらグリグリと進んで行く。狭い路地に「ジャンボ!」の声が飛び交い中々に気分が良い。細い路地には隠れるように小さい店があったり、おっちゃん達が座り込んで憩ってたり、子供が遊んでたり、ネコがやたら昼寝してたり、ゴミがぶちまけてあったりと、風情だけじゃないリアルな生活臭を辺りに放ちながら、独特な雰囲気を醸しているのだ。すれ違うムスリムの女性の衣装も特別なムードを強力に放射している。チャドルってやつですね。おお〜アッラーよ!しかし5分も歩かないうちに急に景色が開け唐突に海岸に出てしまった。何だぁ〜?距離感が変だな!このストーンタウンってのはかなり狭いエリアなのか。まあこれでハッキリと位置関係及び街のスケール感が掴めるというものだ。なんか一度に色んなことがクリアになり急に心強くなる。そこからはもう心軽やかに縦横斜右左東西南北うろつき廻り、やさしいおっちゃんにコーヒーおごってもらったり、旅行代理店を冷かし、インターネット屋を覗いたりと充実の散歩タイムだ。しかし、遅いぞインターネット。ザンジバルから無事到着の声を書き込もうとしたのに、固まってしまった。何度かトライするがラチがあかんので諦める。でもみんなの書き込みが心強く感じられる。うぅ〜!
陽も傾き、影も長く伸びる時間。薄っすらオレンジに彩られた海岸では、地元の若者や子供達が、堤防から飛び込んだり、ビーチでサッカーをしたり無邪気に遊んでいる。マダガスカルのときにも思ったが、例えば、かぶと虫が太ったり痩せたりぜずに、みな同じプロポーションなのと同じように、人間も一様にムダなく締まってイイ身体なんだよね。マダガスカル程じゃないけど、みんなムダのない良いからだをしているよ。おれなんかがいくら黒く焼けて馴染もうったってブヨブヨボディですぐにバレてしまうぜ。まあ、ここの人達の黒レベルは半端じゃないから、日焼けなんかじゃ追い付かないけどな。ブ〜。 その先では黄昏の海を背に、豪快なデカナベで海の幸を豪快にバカバカと揚げている豪快なおっさんが居るではないか。これから夜に向け、確実に盛り上がるであろう独特な浮かれムードが辺り一面に漂っている。デカナベシェフの手前では、伊勢エビ、ロブスター、イカにタコ、各種魚に牛肉の串焼き、鳥もいれば、ナンやチャパティの炭水化物軍団、更に彩りを添えるキュウリ&トマトのサラダ組、アングロサクソン向けフレンチフライまで、実に楽しそうに四角い台に綺麗に並べられている。こういう屋台が何件も集まりサンセットと共に屋台銀座が突如出現するらしいのだ。早速、魚にナン&サラダでミニプレートを購入。もちろん腹が減っているからだが、顔見知りになって後ろのデカナベおじさんを撮影するための投資でもある。コーラ代を足しても1,500sh(タンザニアシリング 1$=約900sh)だ。伊勢エビやロブスターでさえ4〜5,000shも出せば丸々食えるはずだ。現地のレベルで安いかどうかは、まだ実感として分らないが、東京感覚が抜け切らない今は安いと実感出来る値段だろう。味もかなりイケてる。油で揚げたり焼いたりしているだけで、味付けは塩をパッパッと振りかけるだけだ。妙なスープやスパイスは無し!素材を生かすっちゅうのかな、これは。それにしちゃダイナミックな丸揚げではあるが。そんでもって素晴らしいのはナンだ。香ばしさといい塩梅のモチモチ感がたまらない。これなら変な店に入る必要は無い。これでビールでもクイッといきたいとこだが、イスラムの島なのでツーリスト向けのレストランでなきゃムリそうだ。だって売ってないからね、そこらの道端じゃ。海辺の小汚いベンチで、少し早いディナータイム。ナンを独り静かに頬張りながら、おれ自身も浮かれモードに突入だ。
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